オート・オロロジュリ(高級時計)の真髄 後編

オーデマ ピゲ、誕生の地ジュウ渓谷で、オート・オロロジュリ(高級時計)の真髄に触れる。

オーデマ ピゲによる世界最高峰の時計づくり。
一切の妥協を許さず、完璧な仕上がりを目指す。

Story 6


オーデマ ピゲ/ルノー エ パピ社の代表ジュリオ・パピ氏。手にしているのは、かならず製作する実物の10倍スケールの模型。3DのCADで設計する時代でも、見本をつくって試すことが肝要。

オーデマ ピゲの時計製造の場は、創業地ジュウ渓谷の他、さらに北に位置するル・ロックルにもある。ここにスイスを代表する時計設計・製造の頭脳集団がいる。オーデマ ピゲ/ルノー・エ・パピ社がそれだ。

同社を率いるジュリオ・パピ氏は、元々オーデマ ピゲ社で複雑時計の組み立てに従事していた人物である。己が描く革新的な時計づくりを極めるために独立。するとオーデマ ピゲ社が支援の手を上げ、現在同社はグループ傘下となっている。

パピ氏の独創性から生まれた複雑時計に〈ロイヤル オーク コンセプト カーボン トゥールビヨン クロノグラフ〉がある。前代未聞のポインター表示式30分積算計を搭載する。ケース素材には超堅牢・超軽量の鍛造カーボンを採用するが、オーデマ ピゲではカーボンの鍛造作業まで完全に自社内で行う。

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Story 7

少し話は逸れるが、鍛造カーボンの製造について簡単に触れたい。オーデマ ピゲでは本社の奥に最新の鍛造施設を持つ。素材となるカーボンは一見すると黒い糸だ。その中に7000本前後のファイバーが詰まっており、ポリアミドにより固められている。これを240℃で焼くと、糸はポリアミドと分解しスープ状に溶ける。そして型に流し込み、1cm平米あたり300kgの重圧をかける。これが冷えると堅牢な鍛造カーボン製ケースが出来上がるが、無論、検品ではねられてしまうことも少なくない。一方では硬すぎるあまり、余分なバリ取りがまた困難だ。

そこまで大変ならは外注しないのかと質問したところ、当初は外注先を探したが、時計用と聞くと引き受け手がなく、仕方ないので自社製造に踏み切ったという。ちなみに、爪ほどもない超複雑機構用の小さなビスまで同社は自社でつくる。これについても理由を尋ねると、ロット200程度でこんな面倒なものを引き受けてくれる会社かないからだと答えが返って来た。


〈ロイヤル オーク コンセプト カーボン トゥールビヨン クロノグラフ〉。


素材となるカーボンの糸。中に7000本近いファイバーが詰まっており、240℃で焼き、溶解後に1?あたり400kgの重圧をかけて成形


成形後のケース。

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Story 8


09年に発表された〈ジュール・オーデマ クロノメーター APエスケープメント〉。傷つかぬよう、青いニスが塗られている。潤滑油を殆ど必要とせず、毎時43,200振動で高精度を実現。独自の耐衝撃構造搭載。


水性塗料を使用した新社屋の回廊。同施設は薪による熱供給システムを備え、近隣100世帯にも熱供給するという。

さて、話をパピ氏に戻そう。さぞ複雑機能の開発に情熱を傾けているかと思いきや、数理と設計の専門家にしては意外とも思える意見が出た。

「複雑機能も確かに大切ですが、真の高級時計の価値とは、仕上げと装飾にこそあります。実は長いスイス時計の歴史の中で、忘れられてしまった装飾技法や様式は少なくありません。というのも、その昔、時計技法は文書に残されておらず、親方から弟子へ口承だけで伝えられていたからなのです。しかしそれらの技法はこの国の遺産であり、将来へと伝えるべきものです。私はこれをひとつひとつ発掘し、整合化を試み、広くスイスの時計づくりを志す人たちに伝えていきたいのです」

同氏は労を費やして、オーデマ ピゲ社より『ハイエンドな時計の仕上げと装飾』という本を上梓した。時計界全体の発展に身を捧げる意志が、その笑顔に見え隠れしている。

磨きによる美しさこそ高級時計の真髄だとパピ氏は語ってくれた。ル・ブラッシュに08年完成したばかりの新社屋で、今度はその技を目の当たりにした。この建物は環境性能が極めて高く、ドイツの建築専門誌で表彰されたほどだ。天然の水を循環させることで屋内温度を一定に保ち、一方では室内に入る日光の照度も自動調光する。そして人体に有害な電磁波を制御する。さらに川を昔の流れに戻させた結果、そこに鱒まで帰って来た。

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Story 9

話をオーデマ ピゲの美しさに戻そう。とにかく手作業で磨き抜くのである。例えば微細な部品の面取り。コンマ数mmの斜面と斜面が内向きで接するパーツの凹部を「戻り角」というが、この部分は機械で仕上げることは不可能だ。そこで職人は幅1mm程度しかない小刃を入れ、寸分狂いなく角を仕上げる。その後、粒子を5段階に分けたダイヤモンドパウダーで丹念に磨く。こうして見えないほど小さな面まで鏡面仕上げにする。磨く目的は美意識がそのすべてではない。磨くことで部品の耐摩耗性と耐腐食性が高まることを、時計職人の先達たちは知っていたのである。


鍛造カーボン製のケースのバリをとる。極めて硬いだけに大変な手間がかかる。


爪と比較すれば、部品のサイズが想像できよう。完成後は見えない部分まで美しく仕上げる。


歯車のウデに鏡面仕上げを施す。木ベラにダイヤモンドパウダーを塗布して磨く。

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Story 10


ムーブメント設計課マネージャーの浜口尚大氏。若いながら、近年は部下の設計チームの監督役を勤めている。


ミニッツリピーターの音色をピアノ型の音響箱に入れてチェックする。風防と共鳴板を柱で繋ぐのは、ヴァイオリンの胴内に「魂柱」を立てて音を広げる原理と同じ。

新社屋でムーブメント設計課マネージャーの浜口尚大(たかひろ)氏に話を聞いた。スイス最高峰の時計メーカーの設計部門で、我々アジアの同胞が活躍していると知り、心なし誇らしくなる。

「現在、我々が発しているムーブメントは、2013年くらいに発表の予定のものです。設計には無論、時間がかかりますが、複雑時計の組み立ても大変です。グラン コンプリカシオンだと1個つくるのに4か月、それがスケルトンになると半年かかります」

手作業の装飾、手作業の組み立て。多くの職人たちが長い長い時間をかけて、やっと一個のオーデマ ピゲが完成する。数十年はおろか、世紀を超えても正確に動き続け、と同時に美しさを失わない道具をつくるには、それだけの手間が必要なのだ。これこそがハイエンドのオート・オロロジュリの真価である。

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Story 11


2008年、ル・ブラッシュに完成した新社屋。環境性能が抜きん出ている。同社は環境保護活動に積極的であり、別にオーデマ ピゲ財団を設け、環境保全に働きかけている。

オーデマ ピゲの書籍にこんな一文がある。

「時間とは、天体の運行でしかない。そして時計の文字盤を見ることは、宇宙の営みを見ることと同じだ」
そこに未踏の技術への挑戦があり、終点のない美しさの追求がある。最高の時計づくりとは、なんと人間的で、ロマンティックな仕事なのだろう。

夕刻、オーデマ ピゲの本社を辞す。帰途、ジュウ湖が夕焼けに染まり、サーモンピンク色に波打っていた。これもまた美しい時の営みだ。東の空はまだ蒼く、そこに白い月が浮かんでいた。宇宙の営み、時の営み。ジュウ渓谷で得た出会いが蘇り、心が揺れた。

お問い合わせ

オーデマ ピゲ ブティック銀座

〒104-0061 東京都中央区銀座7-8-8 APタワー
TEL:03-6830-0788
営業時間:11:30 - 19:30 / 定休日:水曜日

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